2021年3月25日に、上場企業の「ラクオリア創薬」が第13期定時株主総会を開催しました。
この株主総会では、日本初であろう一般個人株主による経営陣の一部交代を求める株主提案が、可決するかどうかの行方が決まるものとなっていました。
以前私が書いた記事を読むと、なぜ今回の株主提案が起こったのか読む取れると思います。
この日本初の株主提案が可決されることによって、日本の社会、企業経営、株主市場に何かしらの変革をもたらす可能性があり、そのため、とても重大なイベントとなっていました。
そして結果は、「株主提案、全面可決」。
しかも、圧勝。
株主提案の中には、過半数の賛成が必要なものと2/3以上の賛成が必要なものがありました。
株主提案をした筆頭株主の柿沼氏の株数などを考慮して、過半数の賛成はギリギリ取れても、2/3以上は厳しいのではと私は思っていました。
ところが、まさかのまさか、2/3以上(66.7%以上)を軽く飛び越え、約85%の賛成。
ここまで株主提案が圧勝すると想像していた人はどのくらいいたでしょうか。
ここまで個人株主が一人ひとり、議決権をしっかり行使すると想像していた人はどのくらいいたでしょうか。
ラクオリア創薬は、本当に個人株主に支えられていた企業であり、そして、その一人ひとりが真剣に投資をしていたと今回の件で知ることができました。
個人株主の影響力を思い知りました。
ここまでの個人株主の影響力を知ると、上記で紹介した先日書いた記事の「個人株主による新時代のコーポレートガバナンス」というタイトルが、まさにぴったりと感じます。
今回の株主提案の結果等は、下記の記事を読むと流れがわかると思います。
- ラクオリア創薬「総会で株主完勝」の画期的事態 – 会社側提案を否決、質疑も中身あるやりとりに
- 日本で初めてのことを成し遂げた – ラクオリア新社長が語る「株主完勝」の顛末
- 忖度なしに意見が言える、風通しのいい会社に – ラクオリアの監査等委員、柿沼佑一氏に聞く
- ラクオリア創薬・武内博文新社長、「支援型」株主を信じる SNS通じ対話も
私は株主総会の開催場所であった愛知県名古屋市まで行き、株主総会に参加しました。
株主総会の様子は、ネットでライブ配信もされていたため、それを観た人はどのような質疑応答が行われたのかもわかっていると思います。
また、上記の東洋経済の記事に流れがまとめられているため、私が新規に書く内容はそこまでないです。
本当は、株主総会の様子や質疑応答に関して、色々ツッコミを書きたいこともあるのですが、旧経営体制から新経営体制に変わったということもあり、終わったことを掘り出すのもどうかと思い、あまりツッコミは書きません。
そのため、現時点で公開されているマスメディア記事に取り上げられていない事柄等を軽く書いていきます。
議決権の行使結果
今回の議決権の行使結果です。
株主提案の第3号議案以降を見ると、土屋氏、渡邉氏の選任を除くと、85.5%~85.6%の間の賛成割合となっています。
このことから、行使された議決権の中で、約85%が株主提案に賛成したと言えるでしょう。
「有価証券報告書(第13期)」では、2020年12月31日時点で、「所有株式数の割合」で、「個人その他」が81.45%、「外国法人等の個人」が0.12%となっているため、これを足すと、単純計算で個人の割合は、81.57%となります。
全株主が議決権を行使したわけではないので、正確にはわかりませんが、全体の割合だけを見ると、株主提案の賛成率は約85%であり、個人の81.57%を超えているため、個人株主全員に加え、金融機関・法人等も一部株主提案に賛成したような結果となっています。
議決権行使の仕組み上、圧倒的に会社側が有利な状況で、ここまで株主提案の賛成が多いとなると、もはや会社側(旧経営陣)は言い訳は一切できず、この事実を認めるしかないでしょう。
興味深いのが、土屋氏と渡邉氏の選任の賛成率です。
両者は、会社提案と株主提案でどちらも選任候補として挙げているため、普通に考えると、
「株主提案の約85%の賛成票 + 会社提案の賛成票 - 純粋な反対票」
となり、土屋氏と渡邉氏の選任の賛成割合が90%以上を超えてもおかしくないのですが、逆に減って、約72%の賛成しかありません。
土屋氏と渡邉氏は2020年度からいる取締役であるため、今までの会社の経営に不満を持っていた株主の中で、株主提案には基本的には賛成だけど、成果を出しておらず、また、株主提案に対する会社側の反論内容を見て、土屋氏と渡邉氏の選任には反対した株主が結構いたため、このような結果になったと推測できます。
結果的に、監査等委員を除く取締役の中で、武内氏が飛び抜けて株主から支持されたという結果になり、元々、株主提案をした柿沼氏が武内氏を代表取締役にしようとしていたため、武内氏が代表取締役になるという立場的にも良い結果になりました。
株主総会での拍手による議決権行使では、私が現場で視認した限りだと、柿沼氏は土屋氏と渡邉氏の選任の賛成に拍手をしていました。
もしも、柿沼氏が反対していた場合は、「有価証券報告書(第13期)」を見ると、柿沼氏は2020年12月31日時点で「2,383,500株」保有しているため、例えば渡邉氏の選任に関しては、
賛成(個):102,662 - 23,835 = 78,827
反対(個):40,658 + 23,835 = 64,493
となり、約55%の賛成の割合となり、過半数ぎりぎりになっていました。
この圧倒的な株主提案の賛成率を考えると、もしも柿沼氏が途中で、会社側の株主提案に対する反論の内容がよろしくないので、土屋氏も渡邉氏も反対に入れてくださいと言っていたら、おそらく土屋氏も渡邉氏も選任されなかったのではと推測します。
ここで、前年の株主総会の議決権の行使結果も載せます。
このときは、株主提案もなく、また、議決権の行使率を高めるために、議決権行使をした株主に、QUOカードを配布していました。
議案によって、議決権の行使の個数が少し異なりますが(一部議案の棄権?)、谷氏の選任の賛成個数(101,053)と反対個数(17,682)を足すと、「118,735」個の行使数となります。
「有価証券報告書(第12期)」を見ると総株主の議決権数は、「209,424」個となっています。
一方、13期の武内氏の選任の賛成個数(122,689)と反対個数(20,715)を足すと、「143,404」個の行使数となります。
「有価証券報告書(第13期)」を見ると総株主の議決権数は、「209,414」個となっています。
つまり、12, 13期のだいたいの議決権の行使の割合は以下になります。
12期:行使数 [約118,735個]、総議決権数 [209,424個]、議決権行使率 [約57.0%]
13期:行使数 [約143,404個]、総議決権数 [209,414個]、議決権行使率 [約68.5%]
柿沼氏の議決権数が12期から13期で「9,810」個増加しています。
仮に、13期の行使数からこの分を引くと議決権の行使の割合は以下になります。
行使数 [約133,594個]、議決権行使率 [約63.8%]
これらの数字を算出して言いたかったことは、議決権の行使率を増やすために、会社はQUOカードを配ることがあるのですが、QUOカードを配ったときより、QUOカードを配らなかった今回の方が議決権の行使率が高かったということです。
株主提案に関して、マスメディアの記事が出たり、ネット上で話題になったり、また、会社側や株主提案側が議決権行使を促す活動をした結果でしょうが、面白い結果だなぁと思いました。
今回、行使率が高くなったことや会社側が圧倒的な有利な日本の議決権行使の仕組みの中で、株主提案が約85%の驚異的な数字の賛成を得られたことは、何の影響力が1番大きかったのか非常に気になります。
選挙活動などの戦略を練るにも参考になる話であり、世の中の広報活動全般に衝撃を与える出来事だと思います。
どうしてこのような普通では成し遂げられないような結果になったのか、株主提案に賛成した株主全員にアンケート調査をして、要因解析をできたら、非常に価値がある知見になると思います。
この情報を握ることができれば、コンサルなどのビジネスができるのではないでしょうか。
株主総会に初参加
ラクオリアの投資家向け説明会には参加したことがあるのですが、株主総会の参加は今回が初でした。
他社の株主総会にも参加したことがないため、株主総会の参加自体が初めてでした。
新型コロナウイルスの影響もあって、最近は観光をしていなかったため、株主総会の前日に名古屋に行き、「あつた蓬莱軒」でひつまぶしを食べたり、熱田神宮や名古屋港水族館に行ったりして、久しぶりに観光を楽しみました。
株主総会の会場では、会場となる部屋の前で受付をしており、その手前では、よくお店の前などに置いている体温を計測するタブレット型の装置やアルコール消毒液が置かれていました。
会場は私が想定していた以上に狭く、投資家向け説明会ももっと広い会場でやっていて、テレビ等で流れる他社の株主総会の様子も広い会場でやっていたため、そのイメージが強く、こんなこぢんまりしているんだなぁと思いました。
会場の後方には、ライブ配信用のものだろうカメラがあったり、それとはおそらく別途記録用だろうタブレットがセットされていたりしました。
そして、面白いのが、新型コロナ対策でしょうか、会場の中央に質疑応答するための場所が設けられていました。
イメージとしては、裁判の法廷の様子です。
質問するにもちょっとためらう感じです。
株主総会の質疑応答などをメモするためにノートPCを持ってきたのですが、PCやスマホ等の使用が禁止だったため、PCを開くことができませんでした。
重かったのに、持ってきた意味がありませんでした…
ライブ配信もしているのに、今の時代に、会場でPCでメモすることさえ許されないのは、時代遅れ感を感じました(紙によるメモはOKだったので、なおさら違いがわからず)。
株主総会は、谷前代表取締役が議案等の説明をし、その後の質疑応答で、柿沼氏から動議が起こりました。
そして、会場の多数の拍手を持って議長が交代になり、その後、抽選でもれて会場に入れなかった株主が会場に入ることになりました。
質疑応答では、株主から多くの質問が出ました。
私も事前に質問を準備しようとしていたのですが、もう今さら感があり、特に改めて聞きたいこともない状態だったため、質問することないな~と思いながら、振り絞って出して、以下の質問を準備しました。
幾度も業績計画を下方修正しているということは、幾度も計画がズレたことになるため、反省点がいくつかあると思います。
その反省を活かし、今後、企業を大きく成長させるためには、どのような改善をしていけば良いとお考えでしょうか?
ただし、社内の問題等が明るみに出ると会社の不利益に繋がる可能性があるため、その点を考慮した上で、言える範囲のものでお願いします。
この質問内容の裏の意図には、もしも株主提案が全面的に通った場合に、新経営陣は現在企業が抱えている問題で認識していない問題もある可能性があるため、社内の状況をしっかり新経営陣に引き継ぎ、今後、会社を改善していく手助けにして欲しいという意図がありました。
また、旧経営陣の体制では、問題が起こったときに改善をしようとしている様子が外から見る限りではあまり見えなかったため、改善しようとする意志があるのかという問いをし、また、ここで明言させて、今後、改善させていかざるを得ない状況を生み出すという意図がありました。
ただ、これを質問した所で、具体的な改善策の発言は出てこないだろうと思っており、また、色々社内に問題を抱えていてもそれらは表に出せないものだろうと思っていたため、聞いても意味ないよなぁ~と思い、質問しようかどうか迷っていました。
しかし、株主総会中の質疑応答で、私の企業の研究者としての考えに反する発言があり、それにめっちゃツッコミを入れたくなったため、それへのツッコミと上記の質問をしようかと株主総会中、葛藤していました。
ただ、ツッコミを入れるにも色々考慮するとツッコミがしづらく、まともな回答が得られないだろう質問をしても仕方ないと思い、手を挙げる人がほとんどいなかったら、活気がある雰囲気を作るために質問をすることにしました(お酒を飲んで酔っ払って参加していたら、ズバズバ質問、意見をしていたと思います)。
そしたら、例年の株主総会からこうなのか、今回は株主提案もあって株主の想いが強いからか、日本のこういう堅苦しい場では珍しく、次から次へと手を挙げる株主が出てきました。
株主総会の時間は長引き、私は休憩が入らないかなぁと思うようになりました。
そして、手を挙げる人がいなくなったと思われた所で、ラクオリア創業者の長久氏が登場。
長久氏がズバズバ、渡邉氏に質問をしていきました。
もし株主提案が通った際の引き継ぎの件は私も気になっていたため、長久氏がそのことについて言及してくれて良かったです。
一般的な社会人相手なら、わざわざそんなことを言う必要もないのですが、それすらもはや信用がない状態というのが何とも。
「今まで研究に掛けた費用は、どのような成果に結びついたのか」といった長久氏の具体的な額を提示した上での質問は上手いなぁと思いました。
この質問は、私が先ほど書いた準備していた質問の意図の「改善しようとする意志があるのか」という話にも繋がります。
会社側は具体的に計画せずにその場その場で適当に経営をして、その結果がどうなったのかも振り返らず、改善もしようとしていないのでは、という多くの株主が思っていただろう懸念を研究費という具体的な数字を持ってきてのツッコミ。
これに回答できなければ、どこかから湧いてくる(投資家から集めた)お金を熟考せずに研究にツッコんでいるだけとなり、企業の経営としては成り立っていない証明となってしまいます。
さらに、掛けた研究費に対して、もしも全然利益を回収できていない場合は、結果的には、研究費の一部を開発費に回していた方が良かった可能性も出てきます。
掛けた費用が成果に結びついていなくても、そういうことはあり得るので、それは大きな問題ではなく、しっかり考えた上で掛けた費用であるか、また、成果に結びつかなかった場合は、どのように今後は改善していくかを十分に説明できるかが経営としては重要です。
長久氏の雰囲気は貫禄がありました。
私が昔勤めていた企業に似たような雰囲気、言動の幹部社員がいたため、その幹部社員を思い出しました。
ラクオリアの創業時などの話が書かれた本にあった長久氏の生い立ちを見ると、その幹部社員ともそれとなく似ているので、そういう環境で育つとああいう雰囲気、言動になるのだろうかと思いました。
私は少しトイレに行きたくなっていたため、長久氏の質問が終わった時に、やっと株主総会が終わる、やったーと思っていたら、長久氏の質問を聞いて触発されたのか、先程は手を挙げる人がもういなかったのに、質問する株主が新たに出てきて、株主総会はまだ続きました。
株主の方々の熱さに感嘆。
これが株主提案の約85%の賛成に繋がったのかもしれません。
今回の株主提案の可決をきっかけに、今後、同じような個人株主による株主提案が上場企業で増えるかもと思っていましたが、もしかしたら、ラクオリアに投資している個人株主の方々が特段に熱い想いの人が多く、他社では、同じようなことは起こらないかもしれません。
長時間の質疑応答が終わり、各議案の採決へ。
株主総会の当日の朝に、会社側が会社提案の一部撤回を発表した時点で、結果はほぼほぼ決まっているような流れでしたが、その流れの通り、株主提案が全面可決に至りました。
会場では、議案に賛成するかどうかを拍手でするので、それが昔からどんな感じなんだろうと気になっていましたが、株主総会拍手を初体験できました。
新しい経営体制となったラクオリアは、今後どのように飛躍してくのでしょうか。
また、今回の株主提案の可決をきっかけに、他社も刺激となり、日本の経営体質は、より良い方向に向かうのでしょうか。
株主総会前日に行った、「あつた蓬莱軒」の「ひつまぶし」です。
あつた蓬莱軒は、いつも混んでいるので、行きたいと思いつつも今まで行かなかったのですが、この機に行きました。
おいしかったです。
名古屋港水族館は、カップルだらけでした。
最寄り駅から降りて、名古屋港水族館に向かうまでの道を歩いていた人らが私以外、皆若い男女のカップルで、5組ほどのカップルの後ろを私が歩いて行くという異様な光景になっていました。
新型コロナが流行っている最中でも、皆やることはやっているのですね。
日本の株式市場の歴史、経営史に残る出来事を成し遂げたラクオリアの株主提案、ラクオリアの新経営陣にとっては、ここからがスタートです。
ラクオリアが大きく成長することを期待します。
コメント